2008.10.11
街頭募金
鳥になって街頭募金に立つ。
みなさん、ありったけの愛を持ち寄ってください。
猫を抱えたお婆さんが近づいてくるが、迷っているのか。
鞄を開きかけて、また閉じる。そして歩き始める。
さようなら……。縁がなかったようです。
あなたの行く道に、どうか小さな幸せが落ちていますように。
下駄を履いた大男が近づいてきた。
大きな手の中で、じゃりじゃりと小銭を弄んでいる。
「これ、邪魔なので募金するよ」
何だって? そいつは受け取れないねえ。
わさわさと翼を広げて、大風を起こすと、大男は飛んでいった。
空から、下駄が落ちてきて、カランコロンと転げた。
少女が千円札を握り締めて走ってきた。
その後ろから、母親が追いかけてきた。
募金は寸前のところで、千円札から1円玉に替わった。
少女はニコニコと笑っていた。
母親は、九死に一生を得たような顔である。
おいしい親子丼の店で昼を食べる。
立っているだけでも、体力を消耗する。
何よりたくさんお願いするので、喉が渇く。
誘惑に負けて、グラスビールを一杯だけいただく。
「お待たせしました」
親子丼を運んできた店員に、少しへんな顔で見られる。
午後。同じ場所で立つ。
同じ場所でも、人は動き続けているので同じではない。
どなたも、ありったけの愛を持ち寄ってください。
耳の長い犬が、お札をくわえてやってきた。
「これ、二千円だけどほんとにいいの?」
犬は、何も答えなかった。
「もう、いいんだよ、僕」
代わりに、二千円札がつぶやいた。
猫がお婆さんをつれて戻ってきた。
「これっぽっちで、すまないけれど……」
お婆さんは、財布の中から100円玉を取り出し言った。
「いいえ。ありがとう」
これ、ほんのお礼です。
あんまりうれしくて、自分の羽根を一枚あげる。
みんな、ありがとう。大好き。
鳥のために、こんなによくしてくれて……。
ひとの優しさ一日分を抱えて、夕焼け空へ飛び立った。
みんな、待っていろよ。
鳥の巣を目指して、飛んだ。
みなさん、ありったけの愛を持ち寄ってください。
猫を抱えたお婆さんが近づいてくるが、迷っているのか。
鞄を開きかけて、また閉じる。そして歩き始める。
さようなら……。縁がなかったようです。
あなたの行く道に、どうか小さな幸せが落ちていますように。
下駄を履いた大男が近づいてきた。
大きな手の中で、じゃりじゃりと小銭を弄んでいる。
「これ、邪魔なので募金するよ」
何だって? そいつは受け取れないねえ。
わさわさと翼を広げて、大風を起こすと、大男は飛んでいった。
空から、下駄が落ちてきて、カランコロンと転げた。
少女が千円札を握り締めて走ってきた。
その後ろから、母親が追いかけてきた。
募金は寸前のところで、千円札から1円玉に替わった。
少女はニコニコと笑っていた。
母親は、九死に一生を得たような顔である。
おいしい親子丼の店で昼を食べる。
立っているだけでも、体力を消耗する。
何よりたくさんお願いするので、喉が渇く。
誘惑に負けて、グラスビールを一杯だけいただく。
「お待たせしました」
親子丼を運んできた店員に、少しへんな顔で見られる。
午後。同じ場所で立つ。
同じ場所でも、人は動き続けているので同じではない。
どなたも、ありったけの愛を持ち寄ってください。
耳の長い犬が、お札をくわえてやってきた。
「これ、二千円だけどほんとにいいの?」
犬は、何も答えなかった。
「もう、いいんだよ、僕」
代わりに、二千円札がつぶやいた。
猫がお婆さんをつれて戻ってきた。
「これっぽっちで、すまないけれど……」
お婆さんは、財布の中から100円玉を取り出し言った。
「いいえ。ありがとう」
これ、ほんのお礼です。
あんまりうれしくて、自分の羽根を一枚あげる。
みんな、ありがとう。大好き。
鳥のために、こんなによくしてくれて……。
ひとの優しさ一日分を抱えて、夕焼け空へ飛び立った。
みんな、待っていろよ。
鳥の巣を目指して、飛んだ。
2008.10.10
晴れのち傘の準備
●小さなうそ
フェイントは、人を幸せにするうそである。
そんな嘘も、ある。
フェイントの練習をしながら、見慣れた街を歩く。
右へ行くと見せて左に行く。左に行くと思わせて右へ行く。
なかなか、誰も引っかかってはくれない。
みんな、もうすっかり慣れっこなのだ。
人は人とぶつからないことに……。
騙されないよう、いつもいつも警戒していることに……。
幸せなうそでさえ、避けられてしまう世の中である。
今日、初めて僕の小さなフェイントにひっかかってくれたのは、
散歩途中の、犬だった。
耳が長く垂れていて、優しい目の犬だった。
フェイントは、人を幸せにするうそである。
そんな嘘も、ある。
フェイントの練習をしながら、見慣れた街を歩く。
右へ行くと見せて左に行く。左に行くと思わせて右へ行く。
なかなか、誰も引っかかってはくれない。
みんな、もうすっかり慣れっこなのだ。
人は人とぶつからないことに……。
騙されないよう、いつもいつも警戒していることに……。
幸せなうそでさえ、避けられてしまう世の中である。
今日、初めて僕の小さなフェイントにひっかかってくれたのは、
散歩途中の、犬だった。
耳が長く垂れていて、優しい目の犬だった。
2008.10.08
ぼんやり汗、時々すろーらいだーず
●短歌サークル
大昔に始めたSNSで連歌のコミュニティに参加することとなったのは、一昔前の話である。
ムチャクチャ連歌というコミュニティだが、その名は、その名を知る人だけが知っている。
(連歌とは、短歌がそこにあるとすると、上の句を残して次の人が下の句を作り、次は下の句を残して次の人は上の句を作り、次は上の句を残して次の人が下の句を作り、次は下の句を残して次の人が上の句を作り、次は上の句を残してその次の人が下の句を作り、そしてその次の人が上の句を、というようにして歌い人が次々と入れ替わりながら、次々と新しい歌ができていき、いつまでたっても終わらない。終わらない餅つき大会のようなものである。それでいてそこはムチャクチャ連歌であるから、時には順番なんか無視しても構わないのだし、連歌じゃなくなっても、元気がなくなっても平気なのである)
ムチャクチャでいいよ、というのは、色んな意味でやさしく思われたが、ムチャクチャに歌うということも、それなりにムチャクチャ難しいことであり、ムチャクチャなりのセンスが要求される。要求されているような気がした。
ムチャクチャでいいんだな。だったら、どんどんムチャクチャに歌ってやるぞ。意気込んで歌う。
そして、歌ってみれば、いたって普通であったりして……。
なーんだ、ちっともムチャクチャじゃないじゃないか。自分の普通さに、ちょっぴり嫌気がさすのである。
誰でもが参加できるというので、どんどんと誰でもが参加してくるのかと構えていると、どういうわけかほとんど誰も参加してこないのであった。
参加するのが自由なら、参加しないのも自由。むしろ、そちらの自由の方が遥かに大きい。
みんな、ニンテンドーDSで遊んだり学んだりしているのであろう。わーい、いいなあ。
夏が終わり、最近はめっきりと歌い人も減ってしまった。続きを続ける人がいなければ、歌は、ぽつんと残ってしまう。
広い宇宙の片隅で、この指とまれをした時の指のようである。
大昔に始めたSNSで連歌のコミュニティに参加することとなったのは、一昔前の話である。
ムチャクチャ連歌というコミュニティだが、その名は、その名を知る人だけが知っている。
(連歌とは、短歌がそこにあるとすると、上の句を残して次の人が下の句を作り、次は下の句を残して次の人は上の句を作り、次は上の句を残して次の人が下の句を作り、次は下の句を残して次の人が上の句を作り、次は上の句を残してその次の人が下の句を作り、そしてその次の人が上の句を、というようにして歌い人が次々と入れ替わりながら、次々と新しい歌ができていき、いつまでたっても終わらない。終わらない餅つき大会のようなものである。それでいてそこはムチャクチャ連歌であるから、時には順番なんか無視しても構わないのだし、連歌じゃなくなっても、元気がなくなっても平気なのである)
ムチャクチャでいいよ、というのは、色んな意味でやさしく思われたが、ムチャクチャに歌うということも、それなりにムチャクチャ難しいことであり、ムチャクチャなりのセンスが要求される。要求されているような気がした。
ムチャクチャでいいんだな。だったら、どんどんムチャクチャに歌ってやるぞ。意気込んで歌う。
そして、歌ってみれば、いたって普通であったりして……。
なーんだ、ちっともムチャクチャじゃないじゃないか。自分の普通さに、ちょっぴり嫌気がさすのである。
誰でもが参加できるというので、どんどんと誰でもが参加してくるのかと構えていると、どういうわけかほとんど誰も参加してこないのであった。
参加するのが自由なら、参加しないのも自由。むしろ、そちらの自由の方が遥かに大きい。
みんな、ニンテンドーDSで遊んだり学んだりしているのであろう。わーい、いいなあ。
夏が終わり、最近はめっきりと歌い人も減ってしまった。続きを続ける人がいなければ、歌は、ぽつんと残ってしまう。
広い宇宙の片隅で、この指とまれをした時の指のようである。
2008.10.06
嵐のち号泣
●社会の時間
ピッ ピッ …… ピッ … ピッ。
すると、
「はやくしろ!」
と熊のような大男。
ははあ、これは逆さ言葉だな……。
そこで、
ピッ ……… ピッ ……… ピッ ………
とする。
「このボケが!」
と完全に逆効果となる。
熊男が掴みかかってきたため、即座に非常ボタンを押す。
すると、即座に警官隊30人がやってきて熊男を取り囲んだ。
警官隊の手によって熊男は胴上げされている。
直接胴上げに参加しない警官は、直接胴上げ部隊から一歩下がったところでバンザイ、バンザイとやっているが、何がめでたいのかさっぱりわからず、買い物に来た他の客たちも、気味悪がって帰っていくのであった。
胴上げが終わると、辺りに怪我人がいないことを確認して、警官隊は帰っていった。
お客さんも、もういいよ。と言ったのがまずかった。
「何ウォー!」と熊男は、再び燃え上がってしまったのである。
それから、1時間ほど熊男はレジの前を占拠し続けた。
蟻のように小さなことを、おまえは太陽のように大きくしてしまった。第一に俺は、ここの客である。おまえという人間は、店のことなどは少しも考えず、自分のことしか頭にないようだな。他の人間が言わないことを俺が言ってやるのだが、おまえという奴は、いったいどれくらいの時間を無駄にして、どれくらいの人間に迷惑をかければ気が済むのだ。今までの生き方がすべてそうであったに違いないが、今こそその愚かさを知り悔い改めるべきである。何より今日迷惑をかけてしまったのは、あの警官隊たちに対してであるが、おまえが心から謝罪するまでは、俺は決して帰ってやるものか、と言うのである。
太陽の比喩については、少し心動かされるものがあったが、謝る理由は蟻の頭ほども浮かばない。
じっとしたまま熊の話を聞き続けているが、事態は少しも前進することはなく、むしろ後退しているのであった。
どこまでも、どこまでも、耐え難い後退が続く。
先生、もう帰ってもいいですか。帰ってもいいでしょう。
だって、先生。僕は、何も悪くないでしょう。
何もうそをつかなかったし、決まり通りにちゃんとやったじゃないですか。
先生?
先生は、石になって動かない。教室のドアは、固く閉ざされている。
「接客とは、悪くもないのに謝ることだ」
突然、そのようなフレーズが浮かんできた。
果たしてそんな話があっただろうか。それともレジの奥から今、湧いてきたのだろうか。
いけない。この馬鹿、はやく帰れ、と言うんだ。
「すみませんでした」
少年を裏切って、僕は言っていた。
「すみませんでした」
小さな声で、言う。
何度も何度も、熊男が帰るまで、
「すみませんでした」と言った。
言う度に、自身の中から何か大切なものが失われていく気がした。
けれども、出て行った言葉は戻らなかった。
すみませんでした
すみませんでした
すみませんでした……
小さな言葉は、ぎりぎり熊の耳に届くほど小さかった。
それで、謝っているつもりか……。
すみませんでした
すみませんでした
すみませんでした……
何度言っても、言葉に感情が入らなかった。
上辺だけの言葉に、熊男は、ついに愛想が尽きた様子で帰っていった。
教室の窓から、少年が、なぜという顔で僕を見ていた。
僕は、すぐに目を逸らしてレジから逃げ出した。
ピッ ピッ …… ピッ … ピッ。
すると、
「はやくしろ!」
と熊のような大男。
ははあ、これは逆さ言葉だな……。
そこで、
ピッ ……… ピッ ……… ピッ ………
とする。
「このボケが!」
と完全に逆効果となる。
熊男が掴みかかってきたため、即座に非常ボタンを押す。
すると、即座に警官隊30人がやってきて熊男を取り囲んだ。
警官隊の手によって熊男は胴上げされている。
直接胴上げに参加しない警官は、直接胴上げ部隊から一歩下がったところでバンザイ、バンザイとやっているが、何がめでたいのかさっぱりわからず、買い物に来た他の客たちも、気味悪がって帰っていくのであった。
胴上げが終わると、辺りに怪我人がいないことを確認して、警官隊は帰っていった。
お客さんも、もういいよ。と言ったのがまずかった。
「何ウォー!」と熊男は、再び燃え上がってしまったのである。
それから、1時間ほど熊男はレジの前を占拠し続けた。
蟻のように小さなことを、おまえは太陽のように大きくしてしまった。第一に俺は、ここの客である。おまえという人間は、店のことなどは少しも考えず、自分のことしか頭にないようだな。他の人間が言わないことを俺が言ってやるのだが、おまえという奴は、いったいどれくらいの時間を無駄にして、どれくらいの人間に迷惑をかければ気が済むのだ。今までの生き方がすべてそうであったに違いないが、今こそその愚かさを知り悔い改めるべきである。何より今日迷惑をかけてしまったのは、あの警官隊たちに対してであるが、おまえが心から謝罪するまでは、俺は決して帰ってやるものか、と言うのである。
太陽の比喩については、少し心動かされるものがあったが、謝る理由は蟻の頭ほども浮かばない。
じっとしたまま熊の話を聞き続けているが、事態は少しも前進することはなく、むしろ後退しているのであった。
どこまでも、どこまでも、耐え難い後退が続く。
先生、もう帰ってもいいですか。帰ってもいいでしょう。
だって、先生。僕は、何も悪くないでしょう。
何もうそをつかなかったし、決まり通りにちゃんとやったじゃないですか。
先生?
先生は、石になって動かない。教室のドアは、固く閉ざされている。
「接客とは、悪くもないのに謝ることだ」
突然、そのようなフレーズが浮かんできた。
果たしてそんな話があっただろうか。それともレジの奥から今、湧いてきたのだろうか。
いけない。この馬鹿、はやく帰れ、と言うんだ。
「すみませんでした」
少年を裏切って、僕は言っていた。
「すみませんでした」
小さな声で、言う。
何度も何度も、熊男が帰るまで、
「すみませんでした」と言った。
言う度に、自身の中から何か大切なものが失われていく気がした。
けれども、出て行った言葉は戻らなかった。
すみませんでした
すみませんでした
すみませんでした……
小さな言葉は、ぎりぎり熊の耳に届くほど小さかった。
それで、謝っているつもりか……。
すみませんでした
すみませんでした
すみませんでした……
何度言っても、言葉に感情が入らなかった。
上辺だけの言葉に、熊男は、ついに愛想が尽きた様子で帰っていった。
教室の窓から、少年が、なぜという顔で僕を見ていた。
僕は、すぐに目を逸らしてレジから逃げ出した。








