ペンギンが覚える言葉たのしくて僕はちょっぴり饒舌になる

  ●茶柱


兄はいつもお茶を飲んでいた。
ずるずると音を立てて飲み、飲み終わると「あー」とうなった。
テレビを見ながら、新聞を見ながら、横になりながら、お茶を飲んでいた。
兄は、とにかくお茶を飲んでいた。何もしていない時はなかった。
なぜなら、お茶を飲んでいたからだ。
兄の一日はお茶に始まり、お茶に終わった。その一日はほとんどがお茶の中にあった。
兄ほど、お茶に浮かぶ茶柱をみた人はいないだろう。だから、兄は幸せだった。
ご飯の時は、いつもお茶を飲んでいた。お茶漬けを食べていた。
ご飯の後は、お茶を飲んでいた。湯飲みを抱えたまま、どこかへ消えていく。
お茶がなくなると、「お茶!」と言った。

「お茶!」
兄は、誰にでもお茶を求めた。まるで「こんにちは」と言うように。
時々、礼儀知らずと誤解されることもあった。だけど、それは違う。
兄は、お茶を誰より愛しているというだけだった。

レジの横のお茶を買った。
まだ少し、生温かかった。兄ならきっと不満を言っただろうか……。
トレーの上に置いた一円玉の中の一枚が立った。

2009.05.26  青い空のち白い空
 ●解凍時間


冷凍のうどんはありますか?
すると、店の人は「冷凍のうどん」と反復して、麺類コーナーへ歩いていった。
ついていくと、なるほど種々様々なうどんがあるのだった。
さぬき風うどん、太うどん、細うどん、鍋うどん、手打ち風うどん、旨うどん、しっかりうどん、平たいうどん……。
様々なうどんが、個性を競うようにして並んでいたが、その中に冷凍のうどんは見当たらない。

「冷凍のうどんですか?」
店の人は、再び言った。
これだけのうどんが揃っているのだから、この中にあるうどんからさっさと選んで帰りやがれ、このうどん馬鹿が、というニュアンスは全くといっていいほど含まれていなかった。店の人は、より経験のある店の人を尋ねてどこかへいった。
しばらくして、冷凍のうどんは冷凍コーナーで見つかった。
すぐ隣では、熊が眠っていた。


一行もあるのに何も伝えられなかった


こんなにも詩を書く人たちがいっぱい